総合診断実習 指導要領

○感染症検査総論・各論(水曜08:50〜12:00)実習室1

【総論】(20分程度)
(1)感染症の最も重要な特徴(→病原体がいなければ絶対におこらない疾患であり
したがって治療の中心は病原体の駆除であり、検査の中心は病原体の検出である)を
答えさせ、本日の講義は「病原体を検出する検査」に的を絞ることを伝える。
(2)表を作り、病原体の種類を小さい順に答えさせて(→プリオン/ウイルス/ク
ラミジア/リケッチア/マイコプラズマ/細菌/真菌/原虫/寄生虫)行の項目名を
埋め、測定原理(→形態検査/培養検査/抗体検査/抗原検査/遺伝子検査)を答え
させて列の項目名を埋め、この表を埋めていくような考え方で勉強すると整理しやす
いことを説明する。(→図1)
(3)一般的に測定原理は上記の順で右側のものがより高い技術を要するため、この
順に開発されてきたことを説明する。
(4)理論的には、特異性・検出感度とも遺伝子検査が最も優れているが、限られた
コスト・人手・時間の中で行う制約および歴史的経緯から、それぞれ実際にはそれ以
外の方法が普及していることを説明する。
(5)下記の具体的トピックを例にとり検査結果の正確な解釈の重要性を認識させる。
・HBs抗体およびHCV抗体が各々陽性の場合どう判断するか(→HBs抗体:抵抗力があり
感染しない、HCV抗体:感染している可能性がある、血中のウイルス抗原は通常抗体
で中和されてしまうので、HBs抗原が容易に検出できるのはむしろ珍しい現象である)
・日赤ではどうやってエイズの供血者を見分けているか(→以前は抗体検査であった
ためわずかながらウインドウピリオドによる洩れがあり、本邦でも既に数件の輸血感
染が起こった。ごく最近プール血液をPCRにかける方法が導入されたが感染の可能性
はゼロにはならない)

【各論(講義)】(1時間程度)
(1)各論および明日の実習は、細菌検査の報告内容を正しく解釈できるようになる
ことに目的を絞っており、各論の達成目標はプリントの「細菌検査の報告書を見ると
きに考慮すべき事項」を理解すること、実習の達成目標は検査技師が何を見て報告書
の各項目を書いているかを理解することである旨説明する。
(2)細菌検査の報告書には病原体名と有効な薬剤が記載されているので、治療に直
結するような印象が強いが、さまざまな要素に影響を受けるので盲目的に信じると誤
りを冒しやすいことを強調する。
(3)細菌検査全体の流れ(検体採取→保存・運搬→塗抹染色・鏡検/分離培養→釣
菌→同定・感受性→報告)を説明し、真の病原体が報告書に載るためには、数多くの
ハードルがあることを理解させる。(→図2)
(4)プリントに沿って解説する。
I.  細菌検査の報告書を見るときに考慮すべき事項
	A.  病巣にいる細菌はすべて検体に含まれているか
		・  適切な検体採取法
(→痰でなく唾液では病巣の病原体が採れていないので検査しても無駄)
	B.  病巣にいない細菌が検体に紛れ込むことはないか
		・  コンタミネーション
	C.  検体の中にいる細菌はすべて塗抹鏡検で検出できるか
		・  検体からの標本の取り方
		・  存在密度
(→常在菌の中ではかなり優勢でないと病原性は判断できない)
		・  形態・染色態度
(→検体中の酵素等により変性し形や染色性が変わる)
	D.  検体の中にいる細菌はすべて分離培養で検出できるか
(→生け捕りにしないと生えてこない)
		・  接種までの検体の保存条件
(→淋菌や髄膜炎菌は室温ではだめ)
		・  白血球・抗生物質の攻撃
(→血液培養の検体量が多すぎると白血球が細菌を全部食ってしまう)
(→採取後は検体中の抗生物質は代謝されず濃いままである)
		・  検体からの標本の取り方
		・  塗抹方法
		・  培地・培養条件・培養期間(特殊培地は提出医の指示が必要)
(→チョコレート寒天培地を使わないとインフルエンザ桿菌は絶対に出てこない)
	E.  分離培養で増殖した細菌はすべて同定検査の対象となるか
(→すべてを同定検査に回しているわけではなく多くはコロニーだけで判断する)
		・  コロニーの性状で常在細菌叢と判断
		・  分離培地上のコロニーの性状と数でコンタミネーションと判断
(→主治医が臨床的に必要と判断したら意見交換し同定や感受性を追加すること)
	F.  同定された細菌はすべて感受性検査の対象となるか
		・  菌名で常在細菌叢と判断
		・  菌名と分離培地上のコロニーの数でコンタミネーションと判断
(→主治医が臨床的に必要と判断したら意見交換し同定や感受性を追加すること)
	G.  感受性検査の結果は実際の薬効と等しいか
		・  真の起炎病原体
(→細菌性肺炎が治りにくいと思っていたら実は結核が隠れていた)
		・  真の起炎菌株(→図3)
(→同じ菌種名のなかに違う株が存在する!VRSAを例にとり解説する)
(→VRSAは最初100万分の1以下の頻度でしか存在せず通常の臨床検査では検出で
きないのでMICは低く出る。それそ信じてVCMを投与していると最初は良いが、淘汰に
よりVRSAだけが残りやがてぶり返したときにはMICが高くなる)
		・  投与薬剤の病巣への移行
		・  投与薬剤の生体内代謝
		・  生体内での感受性
(→COPDの緑膿菌慢性感染には検査上は感受性のないマクロライドを持続投与する)
		・  医原性異常細菌叢
(→偽膜性大腸炎)
		・  菌交代
(→昔の緑膿菌感染症)
		・  宿主の免疫力
(→実は予後を決める最大の因子だがまだ測る方法がない。若者の肺炎は寝かしてお
けば治るが、年寄りはがっちりと治療しないと死に至る)
(→新米医師のときは決して自分だけで判断せず、必ず指導医や細菌検査の専門家に
相談すること)
(5)http://survey.umin.ac.jp/rt1998a_mb.htmlの標本画像を提示
・M-01 膿に見られた、白血球に取り込まれているグラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌)
・M-02 尿道分泌物に見られた、白血球に取り込まれているグラム陰性球菌(淋菌)
・M-03 ドリガルスキー改良培地上のブドウ糖発酵グラム陰性桿菌のコロニー
・M-04 ドリガルスキー改良培地上のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌のコロニー
・M-05 血液寒天培地上で不完全溶血を示す肺炎球菌のコロニー
・M-06 ら旋状〜湾曲型のグラム陰性桿菌(Campylobacter jejuni)
・M-07 明瞭な棍棒様形態を示すグラム陽性桿菌(Clostridium difficile)
・M-08 喀痰に見られた抗酸菌染色陽性の桿菌(結核菌)
・M-09 喀痰に見られたグラム陽性の双球菌(肺炎球菌)
・M-10 微分干渉顕微鏡で下痢便に見られた赤痢アメーバ
・M-11 グロコット染色で肺胞洗浄液に見られたPnewmocystis cariniiの嚢子

【休憩】この間に細菌検査室から接種用の培地等をもらってくる

【各論(報告書の実例を使った演習)】(1時間程度)
・症例1
(1)塗抹鏡検結果の白血球と扁平上皮細胞の意味は何か(→唾液か痰かの目安)、
酵母の下の菌糸の意味は何か(→保菌か感染かの目安)
(2)同定結果のそれぞれの菌がGPC・GNC・GPR・GNRのどれかを答えさせ、塗抹鏡検
結果との矛盾の原因を説明させる(→口腔内の嫌気性コリネバクテリウム/結核菌は
いずれもGPRであるが通常の培養では検出できない)
(3)インフルエンザ桿菌しか薬剤感受性を調べていないのは、検査技師が他のもの
を常在菌またはコンタミネーションと考えたからであり、臨床的に必要ならそれらに
ついても追加で依頼すべきことを説明する。
(4)MIC値が書いていないのは、炭酸ガス培養という特殊培養が必要なため、自動
分析装置では測れないためであることを説明する。
(5)薬剤の選択は別表のようにデフォルトが決まっており、これ以外は追加依頼が
必要であることを説明する。

・症例2
(1)気管支洗浄液は気管内から採取するため通常は白血球が多くなることを説明す
る。
(2)常在菌ではあるが、培養検査でこれだけいても塗抹鏡検では見えないことに気
付かせる。

・症例3
(1)塗抹鏡検で酵母が見えないのに培養検査で検出されたことに気付かせる。
(2)治療薬剤の選択にMICはどのように役立つか(→病巣への移行に差があるので
MICが低いものを選べばよいとは限らない。これまでの治療経過や患者の全身状態な
どの総合評価が不可欠であることを強調する)

・症例4
(1)尿は細菌がいて当たり前なので、鏡検はやらず個数で感染かどうかを判断する
。自然排出尿は10の5乗個/ml以上、カテーテル尿は10の4乗個/ml以上、但し膀
胱穿刺で採取した尿は1個から検出。
(2)コメントは全く生えなかったことを知らせるためのもの。

・症例5
(1)便は細菌が無数にいるので、鏡検はやらず食中毒原因菌などに検出菌種を絞っ
て選択培地を使う。
(2)MRSAは12個でも感受性を実施。

・症例6
(1)C. difficileは特殊培地を使うので特に依頼があったときのみ検出。
(2)C.D.チェックとは便中の特異抗原を検出する検査。
(4)病原性大腸菌も依頼があるときのみO157だけを行う。

・症例7
(1)コメントのがないと、正常の検体は書くことが何もない。

・症例8
(1)検査日が近く同じ菌株である可能性が高いと感受性検査は省略される。

・症例9〜11
(1)結核は扱いが全く別で、報告も塗抹鏡検によるガフキー→4週培養結果→8週
培養結果を見て初めて陰性と言える。今どき何と悠長な。
(2)今後液体培地を用いた迅速法や遺伝子検査が急速に普及すると予想され、前者
は当検査部でも2001年度中に導入予定である。

・症例12
(1)小川培地は色つきのプリンのようなものなので、検体をそのまま塗ると当然腐
るため水酸化ナトリウム液で消毒しているが、それが不十分だと稀に腐ることがある
。

・症例13
(1)小川培地に生えても、ここから釣菌して培養するので、最終報告にはさらに時
間がかかる。
(2)当院では核酸同定検査は培地からのみ特に依頼があれば行っている。

・症例14
(1)結核だけは何故か「耐性検査」という。この結果から、薬は効くのか効かない
のか(→対象が4+生えているにもかかわらず各薬剤を染み込ませた培地には生えて
いないので、これは「効く」という結果である)。こんがらがらないように注意。

【自己常在菌の培養(実習)】(20分程度)
(1)BTB乳糖加寒天培地、血液寒天培地、MRSAスクリーニング培地を各自1枚ずつ
計3枚配付。
(2)マジックで裏側の真ん中に縦の線を引いて区分させ、どちらかに「手」、もう
一方に「鼻」と書かせる。
(3)手の指を少し回転させるように3枚の寒天それぞれに接触させる。
(4)綿棒で鼻腔粘液を採取し、そのまま寒天に画線接種させる。
(5)回収し細菌検査室に培養を委託する。

【明日の打ち合わせ】
(1)白衣持参、長髪は束ねること、プリントとアンケート用紙を忘れないで持参す
ること、集合時間(学生の希望に任せる)と場所(実習室1)を確認し終了


○細菌検査の実習(木曜13:00〜17:20)
  臨床検査医学 細菌・血液実習室(D棟3階)←東田先生が鍵を管理

(1)実習室1に集合させ、手袋の着用、手洗いの励行、長髪の処理、医療ごみの廃
棄、感染事故発生時の対応について説明する。
(2)人数が揃ったら病院内での言動に配慮するよう注意したうえ、細菌検査室まで
引率する。
(3)細菌検査室で業務の邪魔にならないよう学生を誘導し、自動分析装置、用手作
業台およびP3施設につき概説する。
(4)実習に必要な器具および検体(尿・痰・検査中の分離培地3検体分・自己常在
菌の培養)を受け取り、学生に持たせて細菌・血液実習室まで引率する。
(5)プリントに沿って実習内容を説明する。

A.  グラム染色(実施)
 純培養の染色とは全く異なり、紛らわしい形態や染色態度の細菌が多数存在する中
で、全体を眺めていくつかの類型に分けるという見方を理解させるのが狙い。細菌を
1個だけ見て、検査技師に「これは何ですか」といった質問をすることがないように
する。

B.  抗酸菌染色(供覧)
 見慣れないといかに見落としやすいか、また平均的に分布するのではなく、集落が
点在すること、ガフキーの号数が殆ど定量性を持たないこと、少ない場合は大変な労
力を要し検出感度には自ずから限界があることを体験させるのが狙い。

C.  分離培地の観察(供覧)
 培地上のコロニーを漏れなく峻別し、かつ種類の異なる分離培地間での異同を判断
する作業を体験させ、この過程が著しく熟練を要し再現性にも限界があることを理解
させるのが狙い。例えば大問題になっているO157でも、検出されるかどうかはたまた
ま検査技師がそのコロニーを釣るかどうかで変わってしまうことを説明する。

D.  自己検体の観察(供覧)
 MRSAスクリーニング培地に生えた場合は希望により細菌検査室に依頼して同定する。

(6)まとまった説明は以上とし、後は随時質問を受け付ける。作業の進め方は自主
性に任せるが、通常は3グループに分かれて別々の課題を並行して進め、順次交替し
ている。

(7)最後にまとめの説明をし、アンケート(無記名で任意)への協力を依頼して終
了。

                                   以上