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日本臨床検査自動化学会会誌 15(4) : 452、1990年
Japanese Journal of Clinical Laboratory Automation 15(4) : 452, 1990

日本臨床検査自動化学会第22回大会

検体検査トータルシステムの開発(第1報)

― 開発の基本構想について ―

西堀眞弘*1 椎名晋一*2

*1,2東京医科歯科大学医学部臨床検査医学

Development of a Total Automation System for the Clinical Laboratory
-A Basic Plan-

Masahiro NISHIBORI*1 and Shin-ichi SHIINA*2

*1,2Department of Laboratory Medicine, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo

[published edition with presented slides]
【はじめに】 現在私共の施設では医科新棟を建設中であり、4年後の開設時には、21世紀のインテリジェントホスピタルにふさわしい先進的な臨床検査が求められる。折しも、最近は多くの施設で検査業務のオートメーション化が熱心に試みられ、ある程度の成果が得られているが、期待される程には普及が捗らず、未だ私共の目的を満たすまでには至っていない。そこで私共は、従来とは全く異なる発想に基づき、新しいアイデアを取り入れた「検体検査トータルシステム」の開発に着手した。現在作業は始まったばかりであるが、すでに予想を超える反響を各方面から受けているので、今回その基本構想である「7つのトータル化」について発表する。

【トータルな分析対象】 従来の臨床検査は、臓器別の病態評価のための手段でしかないものが多く、疾患の本質であり治療に不可欠な病因そのものを追究する手段としては不十分であった。そこで本構想では、近年目覚ましい発展を遂げつつあるバイオテクノロジーや情報科学などの技術を活用し、「疾患の原因」を追究する総合的な病因分析を目指す。例えば、日常検査項目だけでなく、従来は検査システムから除外されがちであった、緊急検査、細菌検査、遺伝子検査なども包含する。また、血液や尿だけでなく、穿刺液や痰など、あらゆる検体の処理も包含する。

【トータルなオートメーション化】 検査業務のオートメーション化を極限まで追求し、検体と依頼情報、管理検体、試薬、洗浄水および電力が入力されると、クリーンデータ、残余検体、熱および廃棄物が出力される完全自動化システムの実現を目指す。したがってその機能には、分析過程だけでなく、血清分離、検体搬送、機器の保守、試薬補給、残余検体の保管、熱と廃棄物の処理などをすべて含める。精度管理機能も含めるが、出力されるデータの最終的なバリデーションは、臨床検査の専門家が容易に行えるようにする。

【トータルな安全性】 本構想では、すべての物理化学的、機械的および生物学的ハザードに対し、検査業務従事者の安全を確保する。また、熱や廃棄物が環境汚染を来さないよう適切に対処する。

【トータルな柔軟性】 従来の検査システムでは、必要に応じて容易に機能の変更や拡張ができるとは限らなかった。本構想では、医学や技術の進歩が次々と臨床検査にもたらす変化に迅速に対応できる柔軟性と、生体の一部である検体のもつさまざまな多様性を吸収できる柔軟性の確保を目指す。特に後者は、均質な製品だけを扱うオートメーション工場との大きな相違点である。

【トータルな標準化】 本構想の目的は、私共の病院に最適な検査システムを開発するだけに留まらない。すなわち、どのような施設で検査業務を自動化する場合でも、豊富な選択肢の中から望み通りの機器を選んで組み合わせることができ、構成部品の交換や追加だけで容易に機能の変更や拡張ができるような、標準化された環境の実現を目指す。したがって私共は、自動分析装置と検体搬送装置のインターフェースや、自動機械とコンピュータのインターフェースなど、標準化に必要な規格の統一を計画している。このような環境は、測定値だけでなく、検査精度を標準化するためにも不可欠と考えられる。

【トータルな門戸解放】 本構想には、臨床検査に関わる研究者や企業の優れた技術やアイデアを結集することが望ましい。したがって、私共の開発作業は誰にでも参画の機会が均等に提供される。また開発作業を通じて確立された規格は、誰でも利用できるように公開される。

【トータルな費用対効果判定】 私共の構想は、必要な投資の巨額さから、非現実的に感じられるかも知れない。しかし目標とする標準化に成功すれば、機器の開発効率の向上や競争原理による品質向上、ひいてはあらゆる施設の検査業務の高いレベルでの標準化、効率化および最適化によって、医療にもたらす効果は計り知れない。


<スライド1>
開発基本構想:「7つのトータル化」
(1) トータルな分析対象
(2) トータルなオートメーション化
(3) トータルな安全性
(4) トータルな柔軟性
(5) トータルな標準化
(6) トータルな門戸解放
(7) トータルな費用対効果判定

<スライド2>
(1) トータルな分析対象
分析目的
 ・臓器別の病態評価
 ・総合的な病因分析
分析項目
 ・日常検査
 ・緊急検査
 ・細菌検査
 ・遺伝子検査
分析検体
 ・血液
 ・尿
 ・穿刺液
 ・痰、その他

<スライド3>
(2) トータルなオートメーション化




<スライド4>
(3) トータルな安全性
検査業務従事者の安全確保
 ・化学的ハザード
 ・物理学的ハザード
 ・機械的ハザード
 ・生物学的ハザード
環境汚染の防止
 ・廃棄物
 ・排熱

<スライド5>
(4) トータルな柔軟性
検査業務の変化に迅速に対応できる柔軟性
検体の多様性を吸収できる柔軟性

<スライド6>
(5) トータルな標準化
柔軟性を保つために必要な選択肢の確保
検査システム全体の標準化

<スライド7>
(6) トータルな門戸解放
参画の機会均等
確立されたノウハウの公開

<スライド8>
(7) トータルな費用対効果判定
トータルな費用算定
 ・開発コスト
 ・運用コスト
 ・リスク管理コスト
トータルな効果判定
 ・直接的な効果
 ・検査精度の向上
 ・検査データの有用性の向上
 ・検査業務の効率化と迅速化
間接的な効果
 ・他の施設での利用による効果
 ・検査業界における製品開発の効率化
 ・競争原理による検査業界の品質向上

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