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臨床病理 47(2) 132-145, 1999
Japanese Journal of Clinical Pathology 47(2) 132-145, 1999

第10回日本臨床病理学会関東・甲信越支部総会

シンポジウム:医療現場におけるコンピュータ応用の現状(5)

臨床検査領域におけるコンピュータ応用の実際

西堀 眞弘*1 萩原 三千男*2

*1,2東京医科歯科大学医学部附属病院検査部
(〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45)


The State of the Art of the Computer Applications
in Clinical Laboratory Medicine

Masahiro NISHIBORI, MD*1 and Michio HAGIHARA*2

*1,2Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University Medical Hospital, Tokyo

[published edition]
For all kinds of purposes, a huge amount of data are processed at a clinical laboratory, including not only letters and numerical values, but also waves and graphics. So various computer applications have been developed for it, although only a small part of them has survived through severe use in practice. They have to cope with many exceptions that will occur at any time, and also to adapt progressive changes in medicine and in needs to medicine, otherwise they cannot increase the productivity of their users, rather they will decrease it.
To avoid such failures, (1) one should make a comprehensive system analysis before planning, (2) one should understand completely what will happen at the user interface of the system, (3) one should make systems so flexible that they can adapt the alteration of needs of their users.
This paper present some outstanding examples that are used or are going to be used successfully in each practical application of laboratory medicine, and point out the key factors of each success.

[Key Words] computer (コンピュータ), laboratory information system (臨床検査情報システム), laboratory medicine (臨床検査医学)




 コンピュータの機能は大きく分けて、計算、文字・数値の記憶・検索・編集、データ通信、推論、ネットワーク、マルチメディアがあり、技術の進歩と共にこの順で利用されてきた。一方臨床検査実務への応用分野には、計測値換算、精度管理計算、報告書作成、診断支援、分析データ収集、分析装置制御、オーダリング、オンラインデータ参照、地域ネットワーク精度管理、形態検査外部精度管理、学生教育、生涯教育があり、ほぼこの順で利用が進んできている。適用分野を縦軸、コンピュータの機能を横軸にとったとき、可能性としてはこれら全ての組合せによる応用が考えられるが、その多くは淘汰され、実用に耐えるもののみが生き残ってきた。
 コンピュータ導入の本質は、実は人手でも処理可能な機能の代替に過ぎないことが多い。医療現場は常に予想外の事態への対応が求められ、社会情勢とともに常に移ろいゆく変化に富んだ世界であり、臨床検査の分野も例外ではない。現在のコンピュータは人間のようには融通が利かないので、そのような臨床検査の現場に漫然と導入すると、却って生産性が落ちてしまう。
 そのような失敗を避け、コンピュータの真価を引き出すためには、(1)情報だけでなく人・モノ・お金の全体の流れを把握し、コンピュータに代替させる機能を綿密に把握すること、(2)コンピュータの外の世界、即ち利用者や自動分析装置などと、コンピュータとの接点、すなわちインターフェースの部分に起こり得るあらゆる状況を綿密に把握し、定型処理だけでなく例外処理やトラブル処理についても柔軟に対応できるよう設計すること、(3)医療および検査技術の進歩と社会情勢の変化を予測し、柔軟にバージョンアップできるよう設計することがポイントである1)2)
 本稿では、臨床検査の現場で実際に稼働し優れた効果をあげている応用事例、および現在実用途上にあり、画期的効果が見込まれる試験運用事例の中からいくつかをご紹介し、上記の3つのポイントを満たすため、各々がいかに目に見えない工夫をこらしているかを指摘する。なお、紙面の関係で数多くの他の優れた事例を割愛させていただいたことを予めお断りしておきたい。


I.パソコンベースの骨髄検査形態データ処理システム(case 1)3)

 血液形態検査の画像をデータベース化するシステムは、商品化されているものを含め、既に多くの実例がある。このシステムも、顕微鏡写真のデジタイズとデータベース化、他の関連データの同時表示、時系列検索など、機能面では他のシステムと大差ない。しかし、開発の出発点において、コンピュータ利用の目的を明確に設定したことにより、それらと一線を画する完成度を達成した。
 即ち(1)血液形態の診断時に同じ患者の以前の画像および関連データが簡便に見られるようにすること、および(2)文字だけの報告書では表現しにくい所見を正確に伝えられるように画像そのものも添付すること、という日常業務に根付いた目的に絞り込み、そのために必要な機能や条件を妥協なく追求した。さらに実用性を大きく左右する操作性について、あらゆる機能につきその向上にこだわった(Fig. 1〜3)。このことが、大変使いやすく、実際に現場で重宝されている数少ないシステムを生み出す原動力となった。このシステムの優位性は、ユーザによる評価(Fig. 4)およびコスト比較(Fig. 5)からも客観的に実証されている。

(図の提供および問い合わせ先:〒232-8555 横浜市南区六ツ川2-138-4 神奈川県立こども医療センター 血液検査室 永井淳一先生)


Figure 1 Case 1: Digitizing a microscopic image3).
Microscopic images are easily captured. You can adjust, trim and mark the pictures by simple operations using a mouse.




Figure 2 Case 1: Accessing previous data of any patient3).
Microscopic images as well as relating data can be easily retrieved and shown at once on this screen.




Figure 3 Case 1: A report sheet of a bone marrow examination with colorful images3).




Figure 4 Case 1: Evaluation of the system by users3).




Figure 5 Case 1: Comparison of the costs against an ordinary system.



II.イントラネットを利用した血液形態データ検索用プロトタイプシステム(case 2)4)

 これは既成の血液像ファイリングシステムの画像検索をより簡便にし、かつ汎用性を持たせるために開発中のシステムである。表示画面は見やすさと使いやすさを追求し、大変良く工夫された3フレーム構成となっている(Fig. 6)。上部フレームに患者ID、氏名などの患者情報を、左フレームには検査履歴(検査日、細胞名称、コメントなど)を表示し、検索したい細胞名称をクリックすると右フレームに画像が呼び出される。


Figure 6 Case 2: The three-frame structure of the screen display.



 このシステムのもうひとつの特長は、イントラネットの技術をベースにしてプロトタイピングを行う独特の開発手法にある。イントラネットとは、もともとインターネットのホームページ用に作られたソフトを、院内のネットワークだけで利用する手法のことで、いったん完成した後でも、システムをインターネットに接続する以外には何の手直しをすることもなく、他の医療機関あるいは世界中の利用者から同じやり方でそのシステムにアクセスできる、という優れた拡張性を持つ。またプロトタイピングとは、システム全体の開発にかかる前に、操作画面の部分だけが動くデモンストレーションソフトを作製し、それを利用者に実際に操作してもらいながら仕様を固めていく開発手法で、ある程度開発作業の重複が生じるものの、完成後の手直しが殆ど必要無くなるため、トータルの開発期間が著しく短縮されるうえ、システムの完成度が飛躍的に高まるという特長がある1)2)
 このシステムは現在開発途上であるが、以上の要因から、短期間の内に画期的な機能が実用化されると考えられる。

(図の提供および問い合わせ先:〒431-31 浜松市半田町3600 浜松医科大学附属病院検査部 近藤光先生、同臨床検査医学 菅野剛史先生)


III.血清蛋白分画学習支援プログラム(case 3)

 血清蛋白分画は臨床診断に大きく貢献する臨床検査のひとつであるが、そのデータを軸に組み立てた症例を素材にし、ビジュアル情報に富んだインタラクティブな電子教材が開発されている。まず症例の主訴や病歴、次いで血清蛋白分画(Fig. 7)の提示に始まり、学習者は関連するデータ(Fig. 8-10)を自由に選んで確認しながら診断を絞っていくことができる。


Figure 7 Case 3: Electrophoresis of the serum protein of a case.




Figure 8 Case 3: Selection of various examinations.




Figure 9 Case 3: Immunoelectrophoresis of the serum protein of a case.




Figure 10 Case 3: Microscopic images of a case.



 他にも同じような教材がCD-ROM等で供給されているが、このプログラムは選び抜かれた症例を用い、実際に起こりそうな状況が設定され、臨床検査だけでなく関連する医療情報を十分に網羅している点で大変実用的であり、それらのお手本を示すものとなっている。

(図の提供および問い合わせ先:〒431-31 浜松市半田町3600 浜松医科大学臨床検査医学 菅野剛史先生)


IV.イントラネットを利用した臨床検査医学教育(case 4)5)6)

 病歴、臨床経過、臨床検査データ、画像診断情報等RCPCに用いられる症例データおよび臨床検査医学の教科書がすべて電子化され、学習者が検討を進める過程に沿ってそれらが順次供覧された後、討論内容が記録され次の機会にそれも参考資料として提供されるという、他に例を見ない包括的教育システムである(Fig. 11)。大規模システムであるにもかかわらず、構想倒れになることなく、既に実際の医学生教育に供用されており、開発者によると「学生の眼の色が変わる」そうで、大きな効果が実証されている。


Figure 11 Case 4: The opening page of the electronic RCPC system5).



 開発者の理念に基づいて大胆な投資がなされていることは大きな要因だが、それだけではここまでの完成度は得られない。こつこつと優れた症例をデータベースとして蓄積してきた長年の努力と、これを優れた画面レイアウトで電子教科書および院内検査情報とシームレスに統合する卓越したイントラネット技術が不可欠であることを見落としてはならない。
 なお、技術的には施設外からの利用に障害はないと考えられるが、現在のところ管理者の判断によりアクセスできるのは施設内だけに制限されている。

(図の提供および問い合わせ先:〒701-0192 倉敷市松島577 川崎医科大学検査診断学講座)


V.高付加価値検査情報システムから電子カルテシステムへ(case 5)7)8)

 これは「THINK」と名付けられた病院情報システムで先駆的な役割を果してきた国立大学病院の例である。検体検査を処理するのは「HIPOCLATES」と名付けられたシステムで、通常の機能に加え、「ゾーン法」というロジックで検査実施間隔を考慮した前回値チェックを行う異常値警告機能と、自動診断された疾患から予想される異常値パターンを元のデータに当てはめて検証する「仮設演繹法」という診断支援機能が予め組み込まれている。これは一見「おまけ」のように見えるが、実は検査部生き残りの危機感に基づく高付加価値化を至上命題として取り組んでいる姿勢が具体的に示されたものである。
 現在は生理検査の波形情報およびサマリー情報を統合処理する「PLATON」と名付けられたシステムの開発が進められている。同じ思想から、資源を使う割には効果の少ない波形情報の伝送は最小限に留め、付加価値の高いサマリー情報のペーパーレス化が最優先に考えられている。
 また超音波検査、内視鏡検査、病理検査などで得られる画像情報を統合処理する「GALIREO」と名付けられたシステムが計画されており、最終的にはこれらのシステムを統合して電子カルテを実現する構想である(Fig. 12)。目的があいまいなまま電子カルテの開発に突き進んでいる施設が多い中、この施設ではひとつひとつの要素を着実に固めながら進んでおり、実現性が高いものと考えられる。

(図の提供および問い合わせ先:〒890-8520- 鹿児島市桜ヶ丘8−35−1 鹿児島大学医学部臨床検査医学講座 中野一司先生)


Figure 12 Case 5: Four systems integrated together into an electronic patient record system7).




VI.データフォーマット統一を目指した波形データ処理システム(case 6)9)10)

 生理検査の波形データをデータベース化する際に、報告画面に表示される画像データの形で格納したのでは座標データが失われてしまうが、かといってメーカーによってフォーマットが異なる生波形データを蓄積しても、将来別のメーカーの製品に変えると前のデータが読めなくなってしまうというジレンマがある。
 このシステムでは、独自に開発した汎用の座標データ用フォーマットですべての波形データを蓄積し、報告用の画像はそれを変換して送ることにより解決を図っている(Fig. 13)。理屈の上ではすぐ考えつく解決策であるが、現実にそのようなフォーマットを作るためには、各社のフォーマットを精査し、それらすべての差を吸収するために膨大なマンパワーが必要となるため、このシステム以外に実現されたものはない。このシステムの真価を理解するには、将来に渡って機種の選択肢を温存しつつ、標準化された座標データの蓄積を至上命題とする確固たる信念が背景にあることを見落としてはならない。

(図の提供および問い合わせ先:〒113-8519 文京区湯島1-5-45 東京医科歯科大学医学部附属病院検査部 須賀龍治先生)


Figure 13 Case 6: Management and standardization of various formats of wave data.




VII.総合感染症コントロールシステム(case 7)

 自動化の立ち後れた細菌検査の領域でも、検体の塗布や培養同定を完全に自動化し、染色像も取り込んで他の情報と一括処理した結果報告を、直ちに病棟や外来の端末に送り(Fig. 14, 15)、紙の報告書にも染色像が添付される(Fig. 16)という画期的システムが開発された。ただし、これらはいくつかの自動処理装置とコンピュータをイントラネットで結ぶだけで得られる機能である。


Figure 14 Case 7: An online report of microbiological tests.




Figure 15 Case 7: An online report with a microscopic image.




Figure 16 Case 7: A report sheet with a microscopic image.



 このシステムで注目すべきことは、感受性の結果をMICで報告するだけでなく、診療科・検体別に蓄積した感受性検査成績のデータベース(Fig. 17)と、薬剤の投与形態別の組織移行データベースとを照らし合わせ、当該症例についてその薬剤の投与が有効か無効かを自動的に判定してくれるという、世界初の機能が備えられたことである。Fig. 18の最下方に見えているのがそれで、投与経路別及び投与量別に判定結果(この例では無効か判定不能のみ)が記号で示されている。


Figure 17 Case 7: A classified database of drug susceptibility.




Figure 18 Case 7: An online report with speculated drug susceptibility.



 このような、真に治療に直結する情報を生み出すシステムの開発には、細菌検査および感染症治療を熟知したうえで、ニーズから逆算して構成機器の仕様を独自に考案し、情報システムと一体開発できる卓越した技術の裏付けが不可欠である。
 なお、データベースのうち基本的な菌種情報や薬剤情報はホームページで公開されているので、外部からも利用可能である(http://www.icl.hsp.saga-med.ac.jp/)。

(図の提供および問い合わせ先:〒849-8501 佐賀市鍋島5-1-1 佐賀医科大学附属病院検査部 田島 裕先生)


VIII.イントラネットを利用したオンライン検査ハンドブック(case 8)11)12)

 きめ細かく改訂される検査マニュアルを、ホームページ等オンラインで提供すれば大変効果的であることは、かなり以前より実証されている。しかし、この例はビジュアル情報がふんだんに取り入れられている(Fig. 19)他、肝機能について飲酒者の正常値や慢性肝疾患患者での分布などの独自データや、さらに通常は部内でのみ活用している精度管理のデータなども掲載されているうえ、誰でも見られるように公開されている(URL http://www.med.niigata-u.ac.jp/cgi-bin/kensabu.cgi)。


Figure 19 Case 8: An online manual with colorful photographs.



 検査部業務の差別化が強く求められている現在、マニュアルを超えた付加価値情報の提供と積極的な情報公開の姿勢がよく反映されており、学ぶべき点が多い。

(図の提供および問い合わせ先:〒951-8520 新潟市旭町通1-757 新潟大学医学部附属病院検査部 中村 明先生)


IX.インターネットを介した地域精度管理(case 9)13)14)

 各施設で測定した管理検体や患者検体の検査成績をインターネットを介して一箇所に集め、集中的に処理して施設間の比較を容易にし、外部精度管理を効率化しようという試みである。これまでに、ホームページに手入力して入力ミスを自動チェックする試み13)や、各施設の検査データベースからインターネットを介して自動転送する試み14)がなされている。
 後者は既に実験段階に入っており、患者データを用いた精度管理について、データの蓄積が始まっている(Fig. 20)。これは、ホームページ以外のインターネットの潜在的可能性と精度管理事業を共に熟知し、かつ卓越したプログラミング能力を備えていなければ開発できない画期的なシステムである。

(図の提供および問い合わせ先:〒951-8520 新潟市旭町通1-757 新潟大学医学部検査診断学教室 松戸隆之先生)


Figure 20 Case 9: QC data of two hospitals displayed by both a graphic chart and a numeric table.




X.インターネットを利用した形態検査の精度管理(case 10)15)16)17)18)

 尿沈渣・血液像・微生物検査・免疫電気泳動検査・細胞診・心電図・超音波検査等の外部精度管理の際には、スライド写真等が配布されている。これはそれらの画像をホームページに掲載し、インターネットを介して判定のうえ回答や成績をやりとりする試みで、筆者らのこれまでの試行(Fig. 21)からも、費用が安いうえ面倒な参加手続きも減るという大きなメリットが実証されている15)16)17)18)


Figure 21 Case 10: An experimental survey using the internet.



 他にも類似の試みはあるが、コンピュータの画面上でどの程度正しく判定できるかという疑問に答えていないので、本格的普及には至っていない。現在文部省の形態検査インターネットサーベイ研究班では、この点について総合的な検討を進めており、この方法の限界の把握とその克服を目指している。国際的に見てもこのような課題に取り組んでいる研究グループは他になく、この研究班の成果が世界標準として利用される可能性が高い。なおこの研究班では、陣容や研究経過等を詳細かつリアルタイムにホームページ(URL http://square.umin.ac.jp/survey/)で公開して広く意見を募り、標準化に向けたコンセンサスの形成を図っている。


XI.大規模検体検査処理システムのPitfallとその対策(case 11)

 多くの大学で搬送ラインを備えた検体検査自動処理システムが導入されているが、実際には稼動当初のトラブルをはじめ予想外の問題を抱え、期待通りの効果を得るのは容易でない。筆者の所属する施設では10年以上前から情報管理の専従者を確保し、検査とコンピュータの両方を熟知した人材を育成してきたお陰で、そのような問題の対処法をある程度確立し、現在稼働中である本邦最大規模のシステムにおいてある程度効果をあげているので、その一端をご紹介する。
 大規模なシステム開発では、関連する要素が多すぎて機能の把握が困難となるのが常である。しかしトラブル発生の原因となるのは、多くはシステムとそれ以外の世界、すなわち操作担当者、自動分析装置および上位システムとの接点で起こる想定外の事態が殆どである。そこで設計前にその部分の要求仕様を重点的に調査し、予め必要な機能を盛り込むようにしている。
(1)操作担当者との接点、すなわち操作画面では、見たい情報が必要十分に表示され、やりたいことが直ぐにでき、どうすればそれができるかが容易に分かるよう設計する。Fig. 22の後ろ側の画面は一見カラフルだが、余計な情報やボタンがたくさんあり、色の種類が多すぎて大事な情報に気付きにくく操作法も分かりにくい。手前の画面はそれを改善するため独自開発したもので、はるかにシンプルで使いやすくなっている。


Figure 22 Case 11: Comparison of two kinds of the user interface.



(2)自動分析装置との接点、即ちオンライン接続プログラムには、機種毎に異なる通信フォーマット、オーダ情報のない検体の問い合わせおよび報告済検体の結果受信、さらにはシステム障害時の部分稼動などにも柔軟に対処できるよう、年月をかけて磨きあげた独自技術を施している。
(3)上位システムとの接点では、オーダの追加や取り消し、実施日変更はもとより、システム障害からの復旧にも容易に対応できる仕様となっている。
 これらの対策により、今回はじめて採血管オートラベラーを導入した中央採血業務を例にとると、1日300人の患者を3名で採血することが可能となり、また同じく病棟への検体容器配布業務でも、一般的施設の4分の1に作業量が削減されたうえ、構成機器の障害がシステム全体に波及することが激減した。


XII.おわりに

 コンピュータを使ったシステムは、ともすると技術の目新しさに眼を奪われ、本来の目的や本質的な効果を見失いがちである。繰り返しになるが、他施設の成功を自分のものにするためには、本稿で指摘したごとく、表面に出にくいそれぞれの真の価値を学び取ることが大切である。最後に、ご紹介したシステムの説明中、筆者の不手際により適切にお伝えできなかった部分もあると思われるが、伏してお許しを願いたい。なお、本稿はインターネット上で公開しており、図表がよりオリジナルに近い画像でご覧いただけるので、こちらもご参照いただきたい(http://202.242.169.152/works/work19980905.html)。

 それぞれのシステムの紹介と図表の引用を快くお許しいただいた各先生方に深謝いたします。


文 献

1)
西堀眞弘、椎名晋一:ユーザーインターフェース機能に優れた検査システムの開発.臨床病理、38(3):273〜281、1990(http://202.242.169.152/works/jjcp38-0273.html
2)
西堀眞弘、椎名晋一:医療情報システムのユーザーインターフェース.医療情報学、10(1):3〜14、1990(http://202.242.169.152/works/jjmi10-0003.html
3)
永井淳一:パーソナルコンピュータを利用した骨髄検査データ収集システムの試み.臨床病理 46:144〜150、1998
4)
近藤 光、他:イントラネットを利用した血液細胞画像検索システムプロトタイプの開発.第17回医療情報学連合大会論文集、800-801、1997(http://www.shimane-med.ac.jp/jcmi97/paper/024-335.htm
5)
石田 博、他:病態検査情報データベースとWorld Wide Webを活用したRCPCシステム.臨床病理 46:1111〜1120、1998
6)
石田 博、他:イントラネットを利用した臨床検査医学の教育.第17回医療情報学連合大会論文集、804-805、1997(http://www.shimane-med.ac.jp/jcmi97/paper/OS10-428.htm
7)
中野一司、丸山征郎:鹿児島大学医学部附属病院での取り組み―より付加価値の高い検査部の構築に向けて―.臨床病理 46:1089〜1096、1998
8)
中野一司、他:総合生理機能検査支援システム PLATONの基本設計と将来構想.第17回医療情報学連合大会論文集、802-803、1997(http://www.shimane-med.ac.jp/jcmi97/paper/024-004.htm
9)
須賀龍治、他:測定機器の機種依存生に対処した波形データ参照システムの構築.臨床病理 46(補冊):191、1998
10)
Ryuji Suga, et al: The Construction of the Refering System on Wave Data.第18回医療情報学連合大会論文集、128-129、1998
11)
中村 明、他:検査情報のフィードバック:検査ハンドブックとインターネットの活用.臨床病理 46:1103〜1110、1998
12)
馬場みや子、他:臨床家への検査情報サービス.医学検査 47:1001-1005、1998
13)
谷 重喜、他:インターネットによる精度管理調査システムの開発.臨床病理 44(補冊):128、1996
14)
松戸隆之、他:インターネットを介した地域精度管理システムの開発.臨床病理 45(補冊):178、1997
15)
西堀眞弘:形態検査の外部精度管理にWWWを利用する研究.第17回医療情報学連合大会論文集 798〜799、1997(http://www.shimane-med.ac.jp/jcmi97/paper/024-263.htm
16)
西堀眞弘、インターネットを用いた形態検査の精度管理、Laboratory and Clinical Practice、16(1):42〜50、1998
17)
Masahiro Nishibori, et al: Use of WWW in a Control Survey of Morphological Laboratory Tests. Proceedings of the Ninth World Congress on Medical Informatics. 803, 1998(http://202.242.169.152/works/medinfo98-803.html
18)
西堀眞弘、他:WWWを用いた超音波ビデオ画像の外部精度管理.第18回医療情報学連合大会論文集、856〜857、1998(http://202.242.169.152/works/jcmi18-2k74.html

[-> Archives of Dr. mn's Research Works]
第10回日本臨床病理学会関東・甲信越支部総会抄録集 16, 1999

第10回日本臨床病理学会関東・甲信越支部総会
1998年9月5日

シンポジウム:医療現場におけるコンピュータ応用の現状(5)

臨床検査領域におけるコンピュータ応用の実際

西堀 眞弘*1・萩原 三千男*2

*1,2東京医科歯科大学医学部附属病院検査部
(〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45)


[→「臨床病理」掲載論文
 コンピュータの機能は大きく分けて、計算、文字・数値の記憶・検索・編集、データ通信、推論、ネットワーク、マルチメディアがあり、技術の進歩と共にこの順で利用されてきた。一方臨床検査実務への応用分野には、計測値換算、精度管理計算、報告書作成、診断支援、分析データ収集、分析装置制御、オーダリング、オンラインデータ参照、地域ネットワーク精度管理、形態検査外部精度管理、学生教育、生涯教育があり、ほぼこの順で利用が進んできている。適用分野を縦軸、コンピュータの機能を横軸にとったとき、可能性としてはこれら全ての組合せによる応用が考えられるが、その多くは淘汰され、実用に耐えるもののみが生き残ってきた。
 コンピュータ導入の本質は、実は他の手段、即ち人手でも可能な機能が代替されるに過ぎない場合が割合としては最も多い。医療現場は常に予想外の事態への対応が求められ、社会情勢とともに常に移ろいゆく変化に富んだ世界であり、臨床検査の分野も例外ではない。現在のコンピュータは人間のようには融通が利かないので、そのような臨床検査の現場に漫然と導入すると、却って生産性が落ちてしまう。
 そのような失敗を避け、コンピュータの真価を引き出すためには、(1)情報だけでなく人・モノ・お金の全体の流れを把握し、コンピュータに代替させる機能を綿密に把握すること、(2)コンピュータの外の世界、即ち利用者や自動分析装置などと、コンピュータとの接点、すなわちインターフェースの部分に起こり得るあらゆる状況を綿密に把握し、定型処理だけでなく例外処理やトラブル処理についても柔軟に対応できるよう設計すること、(3)医療および検査技術の進歩と社会情勢の変化を予測し、柔軟にバージョンアップできるよう設計することがポイントである。
 本講演では、臨床検査の現場で実際に稼働し優れた効果をあげている応用事例、および現在実用途上にあり、画期的効果が見込まれている試験運用事例の中からいくつかをご紹介し、上記の3つのポイントを満たすため、各々がいかに目に見えない工夫をこらしているかを指摘する。なお、時間の関係で数多くの他の優れた事例を割愛させていただいたことを予めお断りしておきたい。

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