3-F-2-5 画像情報システム / 一般口演セッション: 画像情報システム(2)
東京医科歯科大学医学部
抄録:
Tokyo Medical and Dental University
Abstract: A large potential risk of erroneous diagnosis caused by inaccurately reproduced colors has been left in medical imaging. Even perfect color calibration would not give complete solution, because the RGB color representation system has a critical defect that some colors are impossible to be represented. Although multispectral imaging reproduce whole spectral reflectance of every pixel, it will not be realistic to replace present RGB imaging infrastructures at once.
Now a system bridging a gap between RGB and multispectral imaging is under development by Digital Biocolor Society. Spectral reflectance is compressed using principal component analysis and the number of its eigenvectors is equal to the minimum number of a camera's color bands required to estimate the original spectral reflectance. Because spectral reflectance of human skin and mucosa has only three major eigenvectors, it will be well estimated using data captured by a usual RGB camera.
Applying this principle, the system estimate spectral reflectance of an object using RGB camera data, then calculate RGB values that give the retinal stimuli similar to the reflected light of the object for a particular display under specific illumination.
Keywords: diagnosis, digital imaging, color reproduction, spectral reflectance, multispectral imaging
画像診断の電子化において、不正確な色再現が診断精度に与えるリスクは、カラーキャリブレーションを徹底するだけでは解消できない。網膜の色センサーである錐体が3種類なので、三原色ですべての色が再現できると思われ勝ちだが、実際にはある可視波長帯域の光の色は再現できない。3種類の錐体の分光感度には図1に示す重なりがあるため、例えば緑の光では赤の錐体も同程度に刺激される。したがって可視領域の単色光と同じ刺激をRGB三原色を使って与えようとすると、図2に示すマイナスの部分が生じてしまう。CRTやLCDなど、画像表示装置に使われているRGB光源の波長は図1とは若干異なるが、基本的には同じ限界がある。
このような背景から、対象物表面のスペクトル反射率を1画素毎にまるごと記録し、撮像・表示装置および照明に依存せず、正確な色を再現できる根本的な解決手段として、マルチスペクトルイメージングの医療応用に大きな期待が寄せられている。ただし、三原色をベースに構築されている既存の設備を直ちに置換することは困難である。また医療従事者が現行技術との差を容易に体験できる機会がなければ、新技術を求めるニーズが顕在化しない。
そこでデジタルバイオカラー研究会では、3チャンネルを有する既存の入出力装置で対象物のスペクトルを再現できる、マルチスペクトルイメージング近似体験システムを開発中である。今回はその基本設計について報告する。
n種類のカラーバンドを持つ撮像装置の出力vは、可視領域の光の波長400nm〜700nmを10nmずつ31分割した場合、次の行列演算式で決定される1)。
ただし、oは対象物表面の反射率で、Fは照明光の放射エネルギー、撮像装置の光学系の透過率、カラーフィルターの透過率およびCCD等の光センサー感度で決まる分光積である。もし撮像装置のバンド数をスペクトル分割数と同じ31にすれば、Fの行列の逆行列を両辺にかけて、撮像装置の出力から元のスペクトル反射率が求められるが、撮像装置のコストやデータ量が非現実的な大きさになってしまう。そこで実際にはより少ないバンド数で撮像するが、その場合Fの行列の行数が減り逆行列が計算できなくなるので、Wiener推定という方法を用いる1)。
高次元のデータを低次元データの線形和として近似する手法に主成分分析がある。これをスペクトル反射率に適用すると、網羅的な色見本であるマンセル色票では8種類、油絵の具では5種類、粘膜や皮膚ではわずか3種類の主成分スペクトルで近似でき、それらの数が推定に最低限必要な撮像バンド数であることが分かっている1)。3種類で近似できる場合を例に取ると、スペクトル反射率(oの列)は主成分スペクトル(uの列、添字の1〜3は第1〜3主成分、mは平均値スペクトル)を用いて次のように展開できる1)。
αは、撮像装置の出力vを決定する先の行列演算式でn=3としたものに、この式を組み合わせることにより、撮像装置の出力v、分光積Fおよび主成分スペクトルuから計算できる。
マルチスペクトルイメージング近似体験システムは、バンド数を3とする先の例を、RGB3チャンネルを持つ既存機器に適用し、次の手順で開発する。
本システムは少なくとも皮膚や粘膜の所見について極めて高精度な記録と再現が可能と考えられ、皮膚科領域や看護領域を始め、あらゆる分野に革新的なメリットが期待できる。
最後に、本開発にご協力頂いているデジタルバイオカラー研究会各位に深謝するとともに、興味のある方にも是非新たにご参画頂きたい。
[1] 三宅洋一:ディジタルカラー画像の解析・評価、東京大学出版会、2000年
図1 錐体の分光感度と三原色の波長 |
図2 等色関数理論値 |