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日本臨床検査自動化学会会誌 16(4) : 354、1991年
Japanese Journal of Clinical Laboratory Automation 16(4) : 354, 1991

日本臨床検査自動化学会第23回大会

検体検査トータルシステムの標準化構想について

西堀眞弘*1 椎名晋一*2

*1,2東京医科歯科大学医学部臨床検査医学

Standardization of a Total Automation System for the Clinical Laboratory

Masahiro NISHIBORI*1 and Shin-ichi SHIINA*2

*1,2Department of Laboratory Medicine, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo

[published edition with a presented poster]
【はじめに】 私共は21世紀にふさわしい先進的な臨床検査を実現するため、従来とは全く異なる発想に基づき、新しいアイデアを取り入れた「検体検査トータルシステム」の開発に着手し、その基本構想である「7つのトータル化」について第22回大会で報告した。今回はその中の「トータルな柔軟性」およびそれを支える「トータルな標準化」を目指して技術的検討を進めている、より具体的な構想について報告する。

【目的】 本システムの主要な構成要素となる分析装置は、医療現場のニーズの変化や技術の進歩に伴い、頻繁に更新、追加あるいは機能変更が行なわれるが、従来の検査システムではその都度コンピュータシステムに手を加える必要が生じるため、少なからぬコストが発生してシステム化推進の大きな障害となってきた。さらに今後は検体搬送の自動化により、搬送システムと分析装置の間にも同様の問題が発生し、折角構築したシステムの寿命を著しく縮めるおそれが強い。そこで、検査システムの構成要素をインテリジェント化したモジュールとして部品化し、各モジュール間のインターフェースを標準化することにより、分析装置などの機器を交換する際に必要なステムの修正を最小限にし、システムのライフサイクルをスムースに継続させることを目指す。

【方法】 検体セットや項目指示の手順、測定結果出力様式、最適と考えられる精度管理手法やそれに必要な情報は分析装置ごとに異なるから、その多様性を吸収するためコンピュータを用いて各々の分析装置をインテリジェント化し、ホストコンピュータからすべてを同じ通信プログラムで制御できる分析モジュールとして扱えるようにする。通信回線は容量・柔軟性からネットワーク型が望ましいが、過渡的にはRS232C方式でも可能と思われる。ただし現状では一部の制御機能を省略したさまざまな簡略仕様が混在し、しばしば混乱を招いているので、その統一が不可欠である。
 検体搬送ラインと分析モジュール間の検体受け渡しは、すべて同じハードウエア仕様で、かつ制御情報が有機的にリアルタイムで交換できる状態が理想であるが、現状では検体のセット方法や吸引方法は分析装置ごとに異なるから、その統一が実現するまでは、各分析装置と検体搬送ラインの間に検体搬送ロボットを介在させ、それらの多様性を吸収する。
 ホストコンピュータの機能は検査情報管理と機器制御の2つ分けられ、前者はデータベース管理、後者はリアルタイム数値制御が主となるが、これらの機能は密接に関連するので、それぞれを独立したモジュールとして分離するのは困難と考えられる。
 ホストコンピュータ以外の構成モジュールは、A. 検体搬送ライン、B. 前処理モジュール、C. 分析モジュール、D. 検体保管モジュール、E. 試薬供給モジュール、F. 廃棄物処理モジュールからなる。また標準化すべきインターフェースは、A. 分析モジュール―ホストコンピュータ間、B. 前処理/分析/検体保管モジュール―検体搬送ライン間、C. 検体搬送ライン―ホストコンピュータ間、D. 前処理モジュール―ホストコンピュータ間、E. 検体保管モジュール―ホストコンピュータ間、F. 試薬供給モジュール―ホストコンピュータ間、G. 廃棄物処理モジュール―ホストコンピュータ間である。なお各々の詳細は発表当日報告する。

【評価および将来計画】 以上の構想を技術的に検討したところ、試薬供給モジュールと廃棄物処理モジュールおよびそれらと分析モジュール間のインターフェースについては新技術の導入が不可欠であるが、その他の部分については具体的仕様の立案が可能であることが明らかにされた。新技術が開発されるまでは人間がその部分の機能を果たす必要があるが、大筋において本構想の技術的妥当性は確認されたと考えられるので、今後もこれに沿って作業を進めて行く予定である。


<ポスター>
【はじめに】 私共は21世紀にふさわしい先進的な臨床検査を実現するため、従来とは全く異なる発想に基づき、新しいアイデアを取り入れた「検体検査トータルシステム」の開発に着手し、次のような基本構想を第22回大会で発表した。

開発基本構想: 「7つのトータル化」
(1) トータルな分析対象
(2) トータルなオートメーション化
(3) トータルな安全性
(4) トータルな柔軟性
(5) トータルな標準化
(6) トータルな門戸解放
(7) トータルな費用対効果判定
 今回はこの中の「トータルな柔軟性」を支える「トータルな標準化」を目指して技術的検討を進めている、具体的な仕様について報告する。

【目的】 本システムの主要な構成要素となる分析装置は、医療現場のニーズの変化や技術の進歩に伴い、頻繁に更新、追加あるいは機能変更が行なわれるが、従来の検査システムではその都度コンピュータとの接続をやり直さなくてはならないため、少なからぬコストが生じてシステム化推進の大きな障害となってきた。さらに今後は検体搬送の自動化に伴い、搬送システムと分析装置の間にも同様の問題が発生し、高価なシステムの寿命を著しく縮めるおそれが強い。そこで本構想では、システムの標準化を徹底することにより、分析装置などの機器の変更時に必要となる作業を最小限に押さえ、システムのライフサイクルをスムースに進めることを目指す。

【方法】次のシステム基本構成概念図に示すように、検査システムの構成要素をインテリジェント化モジュールとして部品化し、各モジュール間のインターフェースを標準化する。


システム基本構成概念図

 ただし、項目指示の手順、測定結果出力様式、最適な精度管理手法やそれに必要な情報は分析装置ごとに異なるから、その多様性を吸収するためコンピュータを用いて各々の分析装置をインテリジェント化し、ホストコンピュータからすべてを同じ通信プログラムで制御できる分析モジュールとして扱えるようにする。通信回線は容量・柔軟性からネットワーク型が望ましいが、移行措置としてRS232C方式も仕様に含める。ただし現状では一部の制御機能を省略したさまざまな変則仕様の混在によりしばしば混乱を招いているので、その統一が不可欠である。
 また検体搬送ラインと分析モジュール間の検体受け渡しは、すべて同じハードウエア仕様で、かつ有機的な制御情報がリアルタイムに交換できる状態が理想であるが、現状では検体のセット方法や吸引方法は分析装置ごとに異なるから、過渡的措置として各分析装置と検体搬送ラインの間に検体搬送ロボットを介在させ、それらの多様性を吸収する。
 さらに、現在の技術では自動化が不可能な部分は、とりあえず人手で行いながら将来の技術進歩を待ち、可能な時期にスムーズに自動化できるような仕様とする。
 具体的な機能仕様の要点を下に示す。


システム基本機能仕様(案)

I.  ホストコンピュータ
 A.  検査情報管理
  1.  検査データベース管理
   a)  測定依頼情報
    (1)  患者属性
    (2)  検体採取日時・検体種別・依頼項目・依頼時コメント
   b)  測定値情報
    (1)  依頼項目の測定値
    (2)  精度管理専用項目の測定値
     (a)  精度管理に用いるため常に測定する項目
      i)  例)血球計数装置のPDW:血小板凝集を検出
   c)  測定干渉因子情報
    (1)  病名(透析・凝固異常・自己免疫・M蛋白血症など)
    (2)  給食・投与薬物
  2.  測定依頼情報入力(オンライン/用手)
  3.  測定値情報入力(オンライン/用手)
   a)  測定値・項目コメント・検体コメント
   b)  再検前の仮報告/クリーンデータ
  4.  目視バリデーション支援
   a)  リアルタイム精度管理成績
   b)  測定値情報検索・修正・再検指示・報告許可
  5.  報告出力
   a)  報告書発行/オンライン報告
   b)  仮報告/最終報告
  6.  定型的ワークシート作成
  7.  定型的精度管理
   a)  バッチ処理による古典的精度管理
  8.  定型的稼働統計
   a)  バッチ処理による稼働統計
 B.  物品管理/機器制御
  1.  検体管理
   a)  検体投入管理
    (1)  患者検体
    (2)  コントロール検体
   b)  検体位置管理
   c)  検体量管理
   d)  検体搬送管理
   e)  測定管理
  2.  試薬管理
   a)  試薬供給管理
   b)  調整管理
   c)  試薬量管理
   d)  試薬搬送管理
  3.  廃棄物管理
   a)  排出量管理
   b)  汚染防止処理管理
   c)  分別処理管理
  4.  各モジュールステータス管理
   a)  停止
   b)  一定時間後作業開始可能
    (1)  現在作業中/ウオームアップ中/メンテナンス中
   c)  随時作業開始可能
  5.  各搬送ライン制御
   a)  順送り/追越し/逆戻り
  6.  各モジュール制御
   a)  電源オン/オフ指令
   b)  作業開始/終了指令
   c)  作業情報通知
   d)  メンテナンス実施指令

II.  モジュール
 A.  前処理モジュール
  1.  遠心分離・分注・検体量測定
  2.  検体容器供給・バーコードラベル発行・貼付
  3.  検体採取容器排出
  4.  コントロール検体供給
 B.  分析モジュール
  1.  検体分取
  2.  分析
  3.  リアルタイム精度管理
  4.  再検検体検出
  5.  希釈率変更を含む再検操作
  6.  試薬補給
  7.  廃棄物排出
  8.  メンテナンス・自己診断
 C.  検体保管モジュール
  1.  検体在庫管理
  2.  温度・湿度管理
 D.  試薬供給モジュール
  1.  試薬調整
  2.  試薬在庫管理
  3.  温度・湿度管理
 E.  廃棄物処理モジュール
  1.  生物学的/化学的汚染防止処理
  2.  廃棄物分別処理

III.  搬送ライン
 A.  検体搬送ライン
  1.  順送り/追い越し/逆戻り
 B.  試薬搬送ライン
  1.  順送り/逆戻り
 C.  廃棄物搬送ライン
  1.  順送り

IV.  インターフェース
 A.  分析モジュール―ホストコンピュータ間
  1.  分析モジュール→ホストコンピュータ
   a)  検体同定通知
   b)  検体使用量通知
   c)  ステータス情報
   d)  試薬補給要求
   e)  再検検体要求
   f)  廃棄物排出要求
   g)  測定値情報
  2.  ホストコンピュータ→分析モジュール
   a)  測定依頼項目
   b)  前回測定値
   c)  関連項目測定値
    (1)  例)免疫グロブリンの精度管理に総蛋白量を利用
   d)  精度管理専用項目測定値
   e)  測定干渉因子情報
 B.  前処理モジュール―ホストコンピュータ間
  1.  前処理モジュール→ホストコンピュータ
   a)  検体量・性状情報
   b)  特殊前処理要求
   c)  ステータス情報
  2.  ホストコンピュータ→前処理モジュール
   a)  機器制御命令
 C.  検体保管モジュール―ホストコンピュータ間
  1.  検体保管モジュール→ホストコンピュータ
   a)  在庫管理情報
   b)  ステータス情報
  2.  ホストコンピュータ→検体保管モジュール
   a)  検体入庫・出庫指示
   b)  機器制御命令
 D.  試薬供給モジュール―ホストコンピュータ間
  1.  試薬供給モジュール→ホストコンピュータ
   a)  在庫管理情報
   b)  ステータス情報
  2.  ホストコンピュータ→試薬供給モジュール
   a)  試薬入庫・出庫指示
   b)  機器制御命令
 E.  廃棄物処理モジュール―ホストコンピュータ間
  1.  廃棄物処理モジュール→ホストコンピュータ
   a)  ステータス情報
  2.  ホストコンピュータ→廃棄物処理モジュール
   a)  機器制御命令
 F.  前処理/分析/検体保管モジュール―検体搬送ライン間
  1.  検体容器仕様
   a)  検体保持・操作
   b)  検体同定
   c)  検体分取
  2.  検体送り出し/受け入れ機構仕様
 G.  試薬供給/分析モジュール―試薬搬送ライン間
  1.  試薬容器仕様
   a)  試薬保持・操作
   b)  試薬同定
   c)  試薬格納
  2.  試薬送り出し機構仕様
  3.  試薬格納機構仕様
 H.  廃棄物処理/分析モジュール―廃棄物搬送ライン間
  1.  廃棄物容器仕様
  2.  廃棄物送り出し/受け入れ機構仕様
【評価および将来計画】 この仕様をパートナーとして公募選定したメーカーと共に技術的に検討したところ、試薬供給モジュールと廃棄物処理モジュールおよびそれらの搬送ラインと分析モジュール間のインターフェースについては新技術の導入が不可欠であるが、その他の部分については現在の技術で仕様の立案が可能であることが明らかとなった。したがって基本的には本構想の実現性は確認されたと考えられるので、今後は広く関係する方々のご批判・ご教示を頂きながら仕様を練り上げ、臨床検査界の共有財産と言えるようなシステムの構築を目指したいと考えている。


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