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2-A-3-2 画像情報システム / 一般口演セッション: 画像情報システム3

分光反射率の画像化による診断装置開発のための撮影条件の研究
西堀 眞弘1) 渡邊  憲2) 宮崎 安洋3) 田中 直文4) 荒川 真一5) 千葉 由美6) 大橋 久美子7) 田中  博7) 奥山 真寛8) 上村 健二8) 津村 徳道8) 三宅 洋一9) 内野 文子10) 大和 宏10)
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部1)
武蔵野赤十字病院皮膚科2)
東京医科歯科大学大学院環境皮膚免疫学3)
東京医科歯科大学医学部附属病院手術部4)
東京医科歯科大学歯学部附属病院歯周病科5)
東京医科歯科大学高齢者看護・ケアシステム開発学6)
東京医科歯科大学難治疾患研究所生命情報学7)
千葉大学工学部情報画像工学科8)
千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター9)
ミノルタ(株)画像情報技術センター10)
How to Capture and Use a Multispectral Image in Medical Practice
Masahiro Nishibori1) Ken Watanabe2) Yasuhiro Miyazaki3) Naofumi Tanaka4) Shinichi Arakawa5) Yumi Chiba6) Kumiko Ohashi7) Hiroshi Tanaka7) Masahiro Okuyama8) Kenji Kamimura8) Norimichi Tsumura8) Yoichi Miyake9) Fumiko Uchino10) Hiroshi Yamato10)
Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University Hospital1)
Dermatology, Musashino Red Cross Hospital2)
Environmental Immunodermatology, Tokyo Medical and Dental University3)
Operating Center, Tokyo Medical and Dental University Hospital4)
Section of Periodontology, Tokyo Medical and Dental University Hospital5)
Gerontological Nursing and Health Care System, Tokyo Medical and Dental University6)
Department of Bioinformatics Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University7)
Department of Information and Image Sciences, Chiba University8)
Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University9)
Minolta Co., Ltd10)
Abstract: Although there are various proposals and trials of medical applications of multispectral imaging, which provides pictures include spectral reflectance information for each pixel, they still have difficulties in clinical use. An imaging system developed by us that provides partially device- and illumination-independent color reproduction using common equipment was evaluated. The results show that there is substantial demand for it because we make clinical practice under various illuminant conditions and that a digital camera available at present will provide a good solution. Management of chromatic adaptation and clinical evaluation of this system will be important subjects of future investigation.
Keywords: Medical imaging, Morphological diagnosis, Multispectral imaging, Color reproduction, Color appearance

1. 背景および目的
最近色彩工学の領域で各ピクセルが分光反射率の情報を持つ分光画像が実用化され、(1)人間の視覚認知能を超える診断技術の開発(例えば視診では区別しにくい皮膚・粘膜病変の鑑別)、(2)特定波長帯域の強調による潜在病巣の可視化、(3)メラニンやヘモグロビンなど皮膚の色素成分量の測定あるいは酸素飽和度の推定、(4)遠隔診断・電子カルテにおける照明に依存しない医用色画像の再現、(5)色覚障害を持つ医師に健常な色知覚を与える画像診断装置などの医療応用が期待されている1)。しかし現段階では撮影のために操作が煩雑な特殊装置や厳しい照明条件が要求され、診療現場での利用は困難である。そこで、最も実現のための要求精度が低いと考えられる(4)に焦点を絞り、撮影条件を現在得られる技術を組み合わせて実現できる程度に緩和した場合、どの程度の医学的有用性が期待できるかを検討した。
2. 方法
皮膚や粘膜ではRGB3原色で記録された画像から分光反射率をある程度推定できる1)。そこで撮影装置として市販のデジタルカメラを用い、撮影対象として皮膚と口腔粘膜を用いた。照明条件は通常診察する照明環境とストロボ使用の有無を組み合わせうえ、カラー見本を印刷したシールを写し込んで撮影後の補正に用いた。
まず通常診療の行われるさまざまな場所に標準白板を水平、鉛直あるいはそれらと45度の角度に設置し、その表面を分光放射輝度計 CS-1000(ミノルタ製)で測定して照明条件を調査した。次いで同じ場所において、所見のある皮膚をデジタルカメラ DiMAGE 7i(ミノルタ製)で撮影のうえ、3バンドのCCD出力から既報の方法1)で各ピクセルの分光反射率を推定し、それと照明条件の測定結果から計算した反射スペクトルの色をRGB値に変換した。
3. 結果
3.1 臨床現場の照明環境
図1に計測によって得られた照明環境の分光特性を示す。計測された場所はそれぞれ、a. 皮膚科外来診察室(45度面)、b. 同(窓方向45度面)、c. 同(垂直面)、d. 同(水平面)、e. 皮膚科病棟処置室(45度面)、f. 同(垂直面)、g. 同(水平面)、h. 救急外来(45度面)、i. 歯科外来窓側診療ユニット(天井照明およびライト点灯、水平面)、j. 同(天井照明点灯かつライト消灯、水平面)、k. 歯科外来壁側診療ユニット(天井照明およびライト点灯、水平面)、l. 同(天井照明消灯かつライト点灯、水平面)、m. 手術室A手術台(天井照明および無影燈点灯、水平面)、n. 同(天井照明消灯かつ無影燈点灯、水平面)、o. 手術室B手術台(天井照明および無影燈点灯、水平面)、p. 同(天井照明消灯かつ無影燈点灯、水平面)である。この結果、実際の診療が極めて多様な照明環境下で行われており、それらに十分対応できる色記録再現技術が求められていることが分かる。
3.2 撮影された画像の色再現性
右前腕尺側に出現した膨疹を撮影のうえ、前述の方法で再現したデジタル画像の一部を、別ファイルとして図2に示す。撮影及び色再現の条件は次の通りである。 また健常成人の歯肉周囲を撮影のうえ、前述の方法で再現したデジタル画像の一部を、別ファイルとして図3に示す。撮影及び色再現の条件は次の通りである。 以上の通り、分光処理した画像は従来の撮影法と比較し、各々の照明環境下にある実物により近い色を再現できた。ただし、照明光の特性が強調され過ぎる印象を受ける場合が見られ、人間の眼の色順応を考慮して計算するとそれが緩和される傾向にあった。
4. 考察
臨床現場に存在するさまざまな照明条件に応じられる色再現技術はこれまでなかったので、今回評価した技術は現時点では唯一のものとして、医学的有用性が十分に期待できることが分かった。ただし、色順応を考慮したより正確な色再現方法を今後確立する必要がある。またそれによって得られる精度が、実際にどの程度の医学的有用性を持つかについては、さまざまな症例について検討が必要である。
また、フラッシュ撮影は一定条件の光を均等にあてることができる反面、Fig. 2の左上の画像に認められるような微妙な陰影を記録できず、この例では膨疹なのか紋様のある紅斑なのか区別できない。これは遠隔医療など診断目的で用いる場合には大きな欠点であり、むしろ通常診察する照明条件のままフラッシュなしで撮影することが望ましいと考えられる。今後はそのような条件でどの程度の色再現性精度が得られるか、さらに検討が必要である。
本研究は今後、技術的にさまざまな工夫を試みる必要があるだけでなく、さまざまな応用分野においてその有用性を検討する必要がある。したがって興味をお持ちの方にできるだけ多く参画して頂くべく、デジタルバイオカラー研究会を通じて共同研究者を随時募集しているので、ホームページをご参照願いたい。
5. 研究費について
本研究の一部は平成15年度文部科学省科学研究費補助金「生体の分光反射率の画像化による新しい無侵襲病態検査法の開発」(課題番号:15590480)による。
参考文献
[1]西堀眞弘、RGB処理系とマルチスペクトルイメージングを橋渡しする 医用画像技術の開発、医療情報学 22 (Suppl.)、pp. 600-601、2002.

図 1 診療現場の照明環境